あなたの親指のために - ピペットのエルゴノミクス

あなたの親指のために - ピペットのエルゴノミクス

1970年代にはすでにエッペンドルフはエルゴノミックな (人間工学に基づいた)巧みなデザインを考え始めていました。その重要性は現代のラボにおいて十分に認識されています。エッペンドルフは初の電動ピペットをはじめとした様々な製品を市場に送り出し、革命的なスピード、精度、正確さを備えた、より安全な作業空間の提供に貢献しています。   

研究室での健康と安全について考えるとき、多くの人は揮発性の化学物質、感染性細菌の培養、爆発性物質、放射線被曝などを思い浮かべるでしょう。これらほどの危険性は無いかもしれませんが、劣らず重要なのが、ピペット操作に関わる安全性の問題です。ピペッティングは、現代の研究室で最も一般的な作業の1つです。研究者は平均して1日2時間、年間では約500時間をピペット操作に費やしています1,2。何百時間ものピペッティングの蓄積は、長期的かつ慢性的な医学的問題に関わってきますが、人間工学に基づいた作業環境は、ピペッティングの時間を節約するだけでなく、このようなリスクを大幅に軽減することができます。

エルゴノミクスを理解する

エルゴノミクスという言葉は、ラテン語で「仕事」を意味する "ergos "と、自然法則を意味する "nomos "に由来し、「仕事の自然法則」と訳されています。エルゴノミクスは当初、産業革命の時代に採用され、労働者の生産性を向上させる方法に焦点を当てていましたが3、現在では職場を利用する人々にとってより適した職場をデザインする方法に注目が集まっています。そのためには、人間工学の専門家が職場のストレス要因を考慮しなければなりませんでした。

ピペットの使用に関連する人間工学的なストレス要因には、親指の力、反復的な動作、ぎこちない姿勢などがあります。これらのストレスは小さな不快感をもたらす程度ですむかもしれませんが、最悪の場合、反復性緊張障害(RSI)となって現れることもあります4。エルゴノミックなデザインを採用することによって、研究者にとっては怪我のリスクを軽減し、より快適な作業空間を提供し、雇用者にとっては生産性の向上につながるなど、さまざまなメリットがあります。ラボスタッフに対する要求がますます高まっていることを踏まえると、職場環境を最適化して包括的な健康と福祉を向上させることがこれまで以上に重要になっています。

人が作業に合わせるのではなく、作業を人に合わせる

実験室での生活をより快適にするために、ピペットユーザーであるあなたができる簡単なことがいくつかあります。定期的なストレッチング、正しい姿勢、そしてエクスサイズはRSI発症リスクを抑えます。しかしながら、これらを実践することには限りがあるので、正しいピペットを選択することがラボでの生活を長く幸せなものにするための基本です。

Introduced in 1996: Combitips® plus in 9 different sizes to be used with the Multipette®

それでは、エルゴノミックなピペットを適切に選択するにはどうすればよいのでしょうか?当然のことながら、手間がかからない方がいいですよね。この点を考慮し、エッペンドルフは1996年に連続分注器Multipette® plus 4980と、それに対応するCombitips® plus(現在は9種類の容量サイズがあります)を設計しました。

それまでは、ユーザーは正しい容量を自身で選択する必要がありましたが、Multipette plusは自動的にCombitips plusの容量サイズを認識し、可能な分注ステップをディスプレイに表示します。それから間もなく、エッペンドルフ初の電動連続分注器Multipette proが1998年に発売されました。モーター駆動のピストンを利用して、チップへの液体充填と分注を自動的に行います。このピペットのメリットが認められるのに時間はかからず、Multipette proはたちまち日常的なアプリケーションのためのモデルとして選ばれるようになりました。

Eppendorf Research® pro pipettes pushed electronic pipette usability forward in 1998.

電動ピペットは、操作にかかる力がほとんど必要ないため、ラボでの作業を一変させました。ピペッティング容量を調整するためにボタンを回したり、液体を分注するための吸引排出ボタンを押し込んだり引き上げたりする必要が無くなりました。その代わりに、ボタンを1回押すだけでよくなりました。1999年に導入されたResearch pro のラインアップによって、エッペンドルフは電動ピペットの使いやすさに関して重要な一歩を踏みだしました。それは、粘性のある液体の取り扱いを助ける機能(吸引/分注速度の調節など)と、連続したピペッティング作業をプログラムする機能を組み合わせたものでした。2003年に発売された分注ロボットepMotion® 5070 では、さらに数ステップ進んだ完全自動ピペッティングシステムを実現しました。

Redefining efficient liquid handling since 2003: Eppendorf epMotion® pipetting robots

これらのデザインは、使用方法を改善し、身体へのダメージリスク軽減のための基本となるものですが、電動ピペットのメリットはエルゴノミクスの面だけにはとどまりません。例えば、電動ピペットはピストンの動きをモーターで制御するため、毎回正確な量を吸引・分注することができます。さらに、ピペッティングプロトコルを事前にプログラムして保存しておけば、手作業によるエラーを最小限に抑え、ユーザー間のばらつきを防ぐことができます。エッペンドルフの最新の電動ピペットであるXplorer® plus  2011年)は、これらすべての特徴、そしてさらなる機能を兼ね備えています。さまざまな種類のワークフローとアプリケーションに対応した、多数の操作モードの切り替えが可能なため、非常に汎用性の高いツールです。さらに、次回の校正時期を通知してくれる機能も備えています。

One of the most iconic and successful pipettes of the world: the Eppendorf Research® plus

電動ピペットは現代のラボに欠かせないツールとして定着していますが、手動ピペットは依然として多くのワークフローに欠かせないものです。エルゴノミクスの理解が浸透するにしたがって、手動ピペットはますます軽量化され、スプリングが内蔵されたチップ装着部や視認しやすい容量表示などの機能により、より使いやすくなっています。エッペンドルフの好評を博している手動ピペットResearch® plusはその代表的な例で、エルゴノミックピペッティングを大きく前進させました。2009年に発売されて以来、Research® plus は世界中で最も象徴的で大成功を収めている手動ピペットの一つとなっています。

The PhysioCare Concept

ラボでの作業の要求が高まるにつれ、ピペットのエルゴノミクスな改良も着実に行われてきました。2003年にEppendorf PhysioCare Concept®  を発表し、より健康的な作業空間のための継続的な改善に取り組んでいます。このコンセプトは、ユーザー、ラボ、ラボの作業空間という3つの観点に基づいた、健康的なワークスペースを確保するための包括的なソリューションを供給します。エッペンドルフは、人間工学的に基づいた優れたピペットをデザインするだけではなく、これら3つの相互作用を完全に理解するために、時間と労力を費やし、研究を行ってきました。その結果として、あなたに ―そしてあなたの親指に― かかる負担が最小限に抑えられた、より健康的なワークスペースを提供することが可能になりました。

Eppendorf PhysioCare Concept の3つの観点。(1) ユーザー領域では、エルゴノミックなデザインと、ユーザーのニーズに合った製品パフォーマンスを保証します。(2) ラボ領域は、ユーザー、機器そして消耗品の相互作用と、この相互作用がそれぞれの要求に対してどのように調整できるかを検証します。 (3) ワークフロー領域では、ワークスペースの機器やアクセサリーの配置を、エルゴノミックなデザインによっていかに最適化することができるかを検証します。

未来は今始まっている

現在、ラボのデジタル化は進み、マイクロピペットもネットワークに接続されています。詳しくはピペッティングの歴史と未来についての私たちの連載記事の最終回をご覧ください。
 

もっと詳しく
 

参考文献
1. Pipette Usage and Trends | The Scientist Magazine®. www.the-scientist.com/surveys/pipette-usage-and-trends-37099.
2. Are you applying good pipetting practice? | Laboratory News. www.labnews.co.uk/article/2027358/are_you_applying_good_pipetting_practice.
3. History of Ergonomics | Sustainable Ergonomics Systems. ergoweb.com/history-of-ergonomics/.
4. Eppendorf. Tenosynovitis, CTS and RSI – Medical Background, the Meaning for the Laboratory and Possible Prevention. handling-solutions.eppendorf.com/fileadmin/Community/Liquid_Handling/Pipetting_Facts/Ergonomy/PDF/Whitepaper_Physiocare6_EN_2014_164652.pdf (2012).


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